タイトルの質問ですが、ときどき診察室で投げかけられるものです。結論から言うと「打たなきゃダメ」です。なぜなら、この国には「狂犬病予防法」という法律が存在し、全ての犬に1年に1度の狂犬病ワクチン接種が義務付けられているからです。われわれ獣医師が国家資格を与えられ動物の診療を行なっている以上、法令の遵守は絶対条件。「あの道路40キロ制限だけど、実際50キロでも大丈夫しょ?」という質問をされる警察官の心境を想像してください。そんな感じです。
ちょっと真面目な情報を加えると、現在においても狂犬病は世界中のほぼ全ての国と地域で発生し続けていて、毎年5万人以上が命を落としています。その99%が犬からの咬傷由来で、全体の半数以上をアジア地域が占めています。アジアで狂犬病清浄国は日本と台湾だけ。日本国内の犬での発生は1956年が最後です。周囲を狂犬病発生国に囲まれ、かつ海外との往来がこれだけ盛ん中で、60年以上狂犬病を食い止めていることって、実はかなりすごいことなんです。もちろんこれは運がいいわけではなくて、海外からの感染流入を防ぐ仕組みが機能しているから。日本からの出国もですが、動物を入国させようと思うとなかなか大変な検疫手続きが待っています。この検疫システムのおかげで、日本に暮らしている犬たちは狂犬病とは無縁でいられるわけですが、いざこのシステムが破られた時が問題です。WHOのガイドラインでは、ワクチン接種率70%が国内侵入時のまん延を防止できる目安とされており、現在の接種率は70%ギリギリです。この接種率の数字にも多少のカラクリがあり、市町村にきちんと登録されている頭数をベースにすると70%ですが、登録すらされていない犬を含めると40%台と推計されています。これって、危機的状況ですよね。
とはいえ、現時点であなたの愛犬が狂犬病に感染する可能性は極めて低いと言っていいでしょう。ですが、例えばトリミングやペットホテルを利用する場合、またペット可の賃貸物件に入居する場合など、狂犬病の接種済み証明を求められるシーンは多々あります。また、万が一にも犬が他人を咬んでしまった場合に、狂犬病接種証明がないと、かなり肩身の狭い思いをします。狂犬病ワクチンを打つことが、きちんと犬を飼っていることと完全に同義だとは言いませんが、少なくとも社会においては最低限の許可証と捉えられているのは事実です。
ここで問題になるのが、何らか病気を抱えていたり、高齢であったりと、ワクチン接種が大きな負担になりそうな犬たちの扱いです。ワクチン接種の条件は、元気で食欲があって、過去のワクチンで重いアレルギーになったりしていないこと。寝たきりでごはんもやっと食べるような子まで、何が何でも打ちに来なさいというものではありません。そういった健康上の理由がある犬に対しては、「狂犬病予防接種実施猶予証明書」というものが発行できます。獣医師の判断でこの子は今年の接種いらないよ、という公的な証明で、法的な義務を満たした証明になります。また、接種自体は年度ごとに1回なので、たまたま体調が悪いだけであれば、治療を優先して年度末までのどこかで接種すれば大丈夫です。
面倒に感じるかもしれませんが、かわいい愛犬が社会に受け入れられて生活するため、毎年1回の接種をお願い致します。
狂犬病予防注射の費用
恵庭市内にお住まいの方
接種費用 + 注射済票費用 : ¥3,290
恵庭市外にお住まいの方
接種費用 : ¥2,690
※接種証明書を発行しますので、お住まいの自治体窓口に提出してください。
飼犬登録費用
恵庭市内の方であれば当院で登録手続きができます。登録は生涯で一度だけです。
飼犬登録費用 : ¥3,000
※記載内容の修正や転居手続きは、恵庭市役所環境課で行なってください。
◎毎年4月に市から届く案内をご持参ください。お手元にない場合も接種、手続きは可能です。
◎なるべく平日の午前午前中の接種をお勧めします。